日頃より大変お世話になっております。
アナリストを務めておりました、法学部法律学科4年の一木脩平です。
日ごとに冷え込みが強まり、季節の移ろいを感じる頃となりましたが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。年も残りわずかとなりましたので、どうぞお身体にはお気をつけてお過ごしください。

先日行われた納会を持ちまして正式に慶應義塾体育会バレーボール部を引退いたしました。しかしその実感たるや一向に湧かず、年明けには再び記念館でパソコンと向き合いデータと格闘する日々が戻ってくるのではないかと思っていたりもします。
思い返せば4年前、塾高バレー部を引退した時点では、大学でバレーボールを続けるつもりは全くありませんでした。むしろ、「もう二度とバレーボールはやらない」と思っていたほどでした。そんな自分が今、納会でペナントを受け取り、最後の活動日誌を書いていることを、どこか不思議な気持ちで受け止めています。改めて、人生は本当に何があるか分からないものですね。

本稿では、予想もしなかった形で続くことになった自分のバレー人生を振り返りながら、塾バレーボール部で過ごした4年間を通して学んだこと、そして何より、これまで支えてくださった方々への感謝を綴っていきたいと思います。
乱文になってしまいますが、お読みいただけたら幸いです。

【弱さに向き合えなかった3年間】
私がバレーボールを始めたのは高校1年生の頃でした。入学当初は、中学まで続けていたバスケットボール部に入部するつもりでいました。しかし、ひょんなことから隣のコートで練習をしていたバレーボール部を見学し、そのまま入部することになりました。パスすらまともにできず、毎日がボール拾いから始まる日々。それでも、同期や先輩に恵まれ、少しずつバレーボールにのめり込んでいきました。中でも、同期であり、後に今年度主将を務めることになる山元（法4）との出会いは、私の競技人生において大きな意味を持つものでした。

3年次には、「チームに貢献したい」という思いから主務を務めました。同時に、リベロとして徐々に試合に出場する機会も増えていきました。しかし、コート内では自分が最もバレー歴が短く、周囲に迷惑をかけているのではないかという不安が常につきまとっていました。その恐れは現実となり、やがてスタメンから外れることになります。
悔しさがなかったわけではありません。それでも当時の私は、3年間「試合に出るため」「バレーが上手くなるため」に練習してきたはずなのに、試合に出なくてよいという安堵感をどこかで抱いていました。悔しさから目を背け、自分の立場を言い訳にして、次第にバレーボールそのものに真摯に向き合わなくなっていったのです。振り返れば、それこそが自分自身の弱さでした。

結局、引退まで公式戦でコートに立つことはなく、最後の試合もマネージャーとしてベンチからチームを見守る形で終わりました。選手として結果を残すことはできませんでしたが、主務としてチームをまとめた経験や、山元(法4)をはじめとする高校同期と出会えたことは、今でもかけがえのない宝物です。
一方で、高校3年間を通して「バレーボールをやり切れた」と胸を張って言えるかと問われれば、答えは違います。試合に出られなかった悔しさから目を背け、バレーボールと真正面から向き合うことをやめてしまった自分がそこにはいました。そのもどかしさと後悔を抱えたまま迎えた引退は、決して満足のいくものではありませんでした。

【敗者復活戦】
大学入学当初、私は父や兄と同じような道を歩むべく、資格試験の勉強に打ち込んでいました。高校まで続けてきたバレーの代わりに、大学4年間を捧げるものとして自ら選んだ道でした。しかし、あれほど自分で決めた挑戦だったにもかかわらず、毎日一人で机に向かい続ける生活は想像以上に苦しく(後のアナリスト生活も環境はさほど変わりません…)、今振り返れば、精神的にも追い込まれたどん底の数カ月だったと思います。
当時の私は、高校時代から何も変わっていませんでした。向き合うべきことから目を背け、逃げ続けては理由を探す。そんな自分を、今なら「敗者」だったと表現できる気がします。

そんな中、私の体育会生活のスタートともいえる一日が訪れます。
2022年7月30日、第86回早慶バレーボール定期戦です。
この日、塾バレー部の試合を目の前で観て、心の奥にしまい込んでいた感情が一気に蘇りました。もう一度バレーボールに携わりたい、このチームの一員として何かしらの形で貢献したい、そう強く思うようになりました。
同時に、塾高時代の同期である康生（山元・法4）がリベロとしてコートに立っていなかったことが、悔しくて仕方ありませんでした。（早慶戦の数日前、彼がスタメンから外れたと泣きついてきていたので事情は知っていました。当時と比べると強くなったよ、お前…）
実は大学入学当初から、陽大さん（田鹿・2025年卒）にはアナリストとしてチームに入らないかと声をかけていただいていました。当時はアナリストの「ア」の字も分からない状態でしたが、選手ではなくとも、スタッフという立場であればチームや康生を支えられるのではないかと考えるようになりました。
その後、何度も家族で話し合いを重ねた(あまりに生々しいので今回は割愛)末、最終的にアナリストとして入部しました。

アナリストとしての生活は、毎日が新鮮でした。気がつけば、アナリストという役割に、そして何よりバレーボールそのものに夢中になっていました。2年生になると、対戦校の分析も任せてもらえるようになり、自分が立てた戦術で強豪校に勝利できたときの感覚は、これまで味わったことのないもので、その面白さに一気に引き込まれていきました。しかし、そんな中でアナリストとして最初の大きな挫折を味わうことになります。
2年秋リーグの専修大学戦。アナリストの先輩方が体調不良となり、急遽ベンチから実際に指示を出す役割を任されました。意気込んで試合に臨んだものの、想定外のプレーに全く対応できず、ベンチでは文字通りの「置物」。挙句の果てには、試合に出ている選手に作戦を考えてもらう始末でした。この試合を通して、アナリストとしてこれまでいかに自分の思考が浅かったかを痛感し、大きく自信を失いました。試合後は、同期の平山（商4）の家でただうなだれ、そのまま一泊したことを今でもよく覚えています。のしん（平山・商4）、あの時は慰めてくれてありがとう。

あの試合を境に、自分の中で何かを根本から変えなければならないと強く感じるようになりました。それからというもの、チームの誰よりもバレーボールに詳しくなることを目標に、大学バレーに限らず、高校、さらにはプロの試合まで、あらゆるカテゴリーのバレーボールを見漁り、知見を深めていきました。その中で、何よりも意識するようになったのが「データに固執しすぎないこと」です。さんざんデータと向き合ってきた自分でさえ、いざ試合になれば情報量の多さに混乱してしまうのですから（アナリストとしてはいかがなものかと思いつつ）、選手がキャパオーバーになるのは当然です。
ただデータを提示するのではなく、選手とコミュニケーションをとりながらチームで戦術を考えていく。これこそが私の中の理想像、「チームで勝つアナリスト」でした。
陽大さん（田鹿・2025年卒）からは3年間にわたって、「一木なりのアナリストを突き詰めろ」と言われ続けてきましたが、その言葉の意味が4年間かけてようやく腑に落ちた気がしています。

ラストイヤーの今年も結果だけ見れば決して納得のいくものではありませんでした。目標としていた一部復帰も叶わず、苦しい時間の方が圧倒的に長かったように感じます。それでも秋リーグの日本大学戦や全日本インカレの東京学芸大学戦は、この1年間の、そしてアナリスト４年間の集大成だったと自信を持って言えます。

振り返ってみると、アナリストを務めた４年間はこれまで逃げ続けてきた自分自身に打ち勝つ「敗者復活戦」だった。部活中や試合期間の私を端から見ると、「たかが部活動でなぜあんなにムキになっているのか」と思う方もきっといたでしょう。それでも、私はあの頃の自分に戻ることがどうしても怖かった。だからこそ、両親や同期、先輩方など、これまで支えてくれたすべての人のために、そして何より、弱い自分と決別する自分自身のために途中で投げ出すという選択肢はなかった。どんなに苦しくても、最後までやりきると決めていたからこそ、ここまで辿り着けたのだと思う。

【人を動かすのは心】
ここからは私が4年間の体育会生活を通して学んだことを述べさせていただきます。塾バレー部で過ごす中で、「他人は変えられない」という言葉を幾度となく耳にしました。この言葉は決して諦めを意味するものではなく、「他人は変えられないからこそ、自分にできることに向き合おう」という姿勢を示すものでした。特に、それぞれが確立しつつある価値観や軸を持つ大学生において、他人を直接変えることは容易ではありません。

しかし、他人を変えることはできなくとも、「変わるきっかけ」をつくることはできるのではないか、私はこの4年間でそう考えるようになりました。そして、そのきっかけとなるのは「情熱」や「心」であると思います。どれほど筋道の通った理論やデータ、正義、正しさがあったとしても、そこに相手の心に訴えかける情熱がなければ人は動きません。アナリストを務めた人間の発言とは到底思えませんが、データを扱う立場を経験したからこそ、私は胸を張ってこのことを言えます。人を動かすうえで最も重要なのは、数字や正論の先にある情熱や思いです。

正直に言えば、この気づきに至ったのは最高学年になってからでした。以前の私は、自分の中の正解や正義を貫けば周囲はついてくると考えていました。しかし、価値観や信念が異なる集団において、それだけでは人は動かないことを痛感しました。人は理屈ではなく、心で動く。この学びを胸に、私はこれからも情熱をもって人と向き合い続け、他人が変わるきっかけを作ることができる人間でありたいと心から思っています。

【感謝】
ここまで私の活動日誌を読んでくださりありがとうございました。
最後に今まで関わってくださった方々へ月並みではございますが感謝を述べさせていただき、この日誌を締め括りたいと思います。

星谷監督へ
4年間本当に絶好調でした。
正直なところ、入部当初は身長差が約40cmもある星谷さんとは物理的に視座が合わないのではと不安感に駆られていました。ですが実際には、星谷さんはいつも私と同じ目線で向き合ってくださり、そのおかげでバレーの戦術に限らず、リーダーとは何か、これから社会でどう生きていくのかといったことまで、本当に多くの議論をさせていただきました。
ただ教わるだけではなく、考えをぶつけ合えた時間は、今振り返ってもとても貴重だったと感じています。星谷さんの指導のおかげでアナリストとして、そして一人の人間として成長することが出来ました。改めて、本当にありがとうございました。

アナリストの先輩方へ
途中入部という立場だったにもかかわらず、温かく迎え入れてくださり、本当にありがとうございます。今こうして振り返ると、一人前(?)のアナリストとしてここまでやってこられたのは、間違いなく先輩方3人が育ててくださったからだと思います。後輩を育てる立場に立った今、当時の自分はかなり手のかかる後輩だったと反省しております。それでも見放すことなく、時には厳しく、時には本気で向き合ってくださったことに心から感謝しています。
一部復帰という目標を達成することはできませんでしたが、その想いは確実に後輩たちに引き継がれています。後輩アナリストのみんなが、必ずやその目標を成し遂げてくれると信じています。すずさん（藤田・2023年卒）、そろそろアナリスト飯連れて行ってください。

同期へ
4年間本当にありがとう。この4年間をここまで楽しく、濃い時間を過ごせたのは間違いなく同期のみんなのおかげです。入部時期が一番遅かったにもかかわらず、気づけば一番偉そうにしていた気がしていて、その点はかなり反省しています。一人ひとりにメッセージを残すのは照れくさいので勘弁してください。ただ私は友達が少ないのでこれからも仲良くしてもらえるとありがたいです。

後輩へ
正直、口うるさくて、特に試合期間はピリついていて、かなり面倒な先輩だったと思う。それでも最後までついてきてくれて、本当にありがとう。後輩のみんなに伝えたいことは一つ。
「なぜ4年間を体育会バレー部に捧げるのか」という問いに向き合ってほしい。
ただバレーが好きなだけなら、体育会である必要はない。試合に勝ちたいだけなら、慶應以外にも選択肢はいくらでもある。それでもみんなが「慶應義塾体育会バレーボール部」を選んだのには、きっと理由があると思う。その答えが、苦しいときや逃げたくなる瞬間に踏ん張る原動力になる。そして4年間やり抜いた先には、結果以上に誇れる仲間と、胸を張って語れる経験が残るはずです。みんなならやり切れると信じています。心から応援しています。

家族へ
今日まで支えてくれて、応援してくれてありがとうございました。
大学で体育会に入ると伝えた時、3人が複雑な気持ちであった事は理解しています。それでも反対せずに背中を押してくれた両親、そして両親を説得してまで挑戦を後押ししてくれた兄には本当に感謝しています。特に今年のリーグ戦では、毎週のように遠い会場まで足を運んで応援してくれてありがとうございました。試合に負けると、ほぼ毎回不機嫌になっていた私に対して、気を遣ってそっと距離を取ってくれていた母。きっと裏で「今はそっとしておいて」と言われていたはずなのに、果敢に話しかけてくる父。何も知らない兄。最高のバランスでした。
資格試験と体育会、どちらの道が正解だったのかは正直分かりません。でも、4年間アナリストを務めたことに後悔は一切ありません。最高の仲間に出会えたのですから。
これからは社会人という次のステージで、少しずつ親孝行をしていくつもりです。とはいえ、おそらくまた迷惑をかけると思うので、今後ともよろしくお願いします。

選手として結果を残せなかった過去も、不安から目を背けていた自分も、すべてを抱えたままもう一度バレーボールの世界に足を踏み入れた4年間。二度と戻ってこない時間だからこそ、その全てがかけがえのない宝になりました。最高の思い出をありがとう。
そしてきっとこの先も、死ぬ瞬間まで私の「敗者復活戦」は続いていきます。人生の最後に、「自分はようやく勝者になれた」と胸を張って笑っていたいのですから。